力士の品位と品格は大相撲を語るうえで非常に重要なテーマです。力士は稽古を積んで実力をつけ、白星を増やしていきます。すると番付が上がっていくのですが、この番付が上がれば上がるほど厳しく目を向けられるのが、品位と品格です。特に番付の最上位である横綱に至っては相撲の取り方一つで品位・品格が疑われてしまうという厳しさです。横綱が張り手や変化のある相撲を取ると批判の声が上がります。横綱なんだから正面から相手を受け止めなければいけないという相撲の美学からです。では、張り手や立ち合いの変化をするのはなぜでしょうか。これは当然、勝つためです。
常に真っ向勝負では相手にこちらの出方が分かってしまい、不利になってしまいます。相撲だけではなく、勝負の世界では勝つことが全てだとよくいわれます。力士は勝たなければいけないと親方や周りの人から言われ続けます。それが横綱になると、張り手は横綱らしくない、変化の相撲を取るなといったように相撲の形に注文を付けられるのです。張り手も立ち合いの変化も相撲のルールに基づいた技なのに。
本人からすると困惑してもおかしくないでしょう。そして横綱は負けることが許されません。あまりにも下位の力士に敗北するようだと引退をしなければいけなくなるのです。このように横綱になったら、大関に降格するという退路は断たれ、その一方で、品位・品格はこれまで以上に求められるという状況が力士を悩ませているのです。